目覚めてみれば同室のナタリアとアーチェはまだ眠っていた。
時間にはまだ余裕があるから良いのだけれど…凄い熟睡してるわね。
かくいう私も…自宅よりゆっくり眠れたわ。



準備を済ませ、一階へ降りてみると賑やかな声がした。
男性陣はもう起きているようね。


ヒスイとリヒターの声に混じって、幼い声が聞こえる。

昨日は色々あったけれど…も元気になったようね。
これも昨日私達が作ったフルーツミックスとお粥のおかげかしら。(←
お粥なんて呼べる代物じゃねえだろぉぉbyヒスイ)







「おはよう。早いわね、貴方達」


「ああ、おはよう」
「おう、はよ。飯もう少し時間かかるぞ」
「構わないわ、まだ二人も寝ているし」




「りふぃるおねーちゃ、おはよーごじゃいます」
「はい、おはよう。、もう大丈夫?」
「うんっ、げんきになったの」



笑顔を浮かべて寄ってくるに、もう不調の様子は見られなかった。







「おっし、出来たぜ。わりーけどリフィル、あの二人呼んできてくれよ」
「ええ、任せてちょうだい。ナタリアは兎も角、アーチェは呼ばなきゃ起きないでしょうしね」


















案の定部屋に入ってみれば既に支度を済ませているナタリアと、ベッドで物凄い寝相のアーチェの姿があった。
ナタリアと二人でアーチェを叩き起こし、朝食へと向かう。








ゆったりとした時間、こんなに穏やかな気分なのはいつぶりかしら。
結構最近は研究や、クエストに追われていたからこんなのは久し振りね。

食後のコーヒーを飲みながら、の方を見る。



最初小さくなったと聞いた時は、本当に信じられなかった。






体内のマナが減ったからと言ってそんな現象が起こるだなんて今までそんな事例は無かった。

けれど、彼が“ディセンダー”であるからこそ在りえたのだろう。
だとしたら…元に戻るのは通常の方法ではダメなのでは……。






「りひたーおにーちゃ、だっこー」
「ん、しょうがないな…落ちるなよ」




そんなことを考える一方で、元に戻るのはもう少し後でも良いだろうかと思ってしまう。


今のは何か別の力があるように思えるから。



だって彼と一日を共にしてきたメンバーは、大なり小なり疲れた心を彼に癒されているのだもの。
今だって、あまり人を寄せ付けないリヒターがとても優しい表情をしている。
もっと、沢山の人をこの子と関わらせてあげたい。



それに…私達だけでは不公平だもの…ね?





皆、と一緒にいたいのは同じなのだし。


















との一日も今日で終わりですのね…随分早い気がしますわ」

「そうだねー。、帰りにもう一回箒乗る?」

「アーチェ?昨日のような事になったらどうする気だ?」





和やかな歓談、とても平和な風景。
こうしていれば、日々忙しないギルド生活を送っているのが嘘のよう……






「あっ!」



「ん?どーした?急に大声上げて」

「何か思い出したことでもありまして?」






「クエストよ!ここのところ、慌しかったから溜まってるのよね…」
「だが世話当番以外の奴等でそれぞれ担当している筈だろう?」

「…一番クエスト数をこなしていた人物がこうなっているから溜まっているのよ」




私はそっとを見る。
この子が一日にクリアするクエスト数は他のメンバーの三倍。

私の言いたい事が解ったのか、皆が苦笑を漏らす。








「…そりゃあ追いつかねえわな。しかも世話当番で四人は外れる」

「王族は公務もありますからどうしてもギルドの方に力を貸せない日もありますし…」






皆の溜息が同時に出る。
文句を幾ら言っても仕方が無い、こうなったら数をこなしていくしかないのだけれど…。



そう、思っていた矢先






小さな手が伸ばされた。









っくえすとやるよ!!!」


「!?何言ってんだよ!その体じゃ、モンスターの攻撃まともに受け止められねえだろ!?」

「やーるーのっ!!!」




ヒスイの言うとおり、の小さな体では戦闘はおろか小さなクエストでも重労働になる。
危険性も高いし、ただでさえ不安定なこの状態で戦闘なんて……



「いけませんわ、。貴方にもしものことがあったら皆が悲しみます」

「だいじょうぶっ!できる!!」



誰の意見にも耳を貸す様子はない。
ってこんなに頑固だったかしら…?むしろ聞き分けの良い子だったような。
誰もが反対の意を見せる中、リヒターが口を開いた。




「それなら、の実力を見せてみろ」

「う?」

「それで俺達が大丈夫と判断したら、クエストを受ければ良い」




「おい!リヒター!!」
「頭から否定しても子どもには伝わらん。それじゃ互いに意地になるだけだ」
「うっ…」






驚いた。

の事に関してはリヒターは過保護なところがあるのに、まさか一番反対しそうな人物からそんな言葉が出るなんてね。








「だったら、闘技場行こうよ!あっこなら模擬戦闘出来るっしょ?」
「…そうね。あそこなら命に危険が迫ることはないし…。ヒスイとナタリアも良くて?」



「……しゃーねえなあ」
「本意ではありませんが…」











、がんばる!!!」
































人々の歓声が遠くまで響き渡る。
武器と武器が鬩ぎ合う音、盛り上がりは一段と激しくなる。


そんなところに、小さな子どもを連れた私達。
周りからの視線を感じるわ。




「…すっごい見られてるね」

「まー場違いっちゃぁ場違いかもな」







受付で手続きを済ませ、部屋を借りる。
此処では、ランク別の模擬バトルを行うことが出来る。
出てくるモンスターはホログラム、とは言え攻撃をくらえば衝撃は来るし此方の攻撃を当てることも出来る。

ここのモンスターデータは逐一更新されているから、攻撃パターンも動作パターンも戦闘ごとに違う。
まさに現実と変わりない、バーチャルリアリティ。





「じゃあ取り敢えずの実力チェックだな。、お前職業何にしとく?」

「後衛で良いんじゃないの?壁役連れて行けば一番安全じゃん」

「あのなー…。まあ確かに前衛には出せねーわな。手足も短くなってるし。じゃあ魔術師にしとくぞ」

「本当に大丈夫かしら…。、呪文詠唱出来ます?」

「あいっ!」



自信たっぷりな表情を見せられてはなんとも言えないわね…。

メンバーは前衛にリヒター、中衛にヒスイとナタリア、後衛にと言う形になった。
基本的にはの所まで敵を行かせないようにするのが目的なのだけれど…もう一人位前衛がいた方が絶対良いわね、この組み合わせ。







≪戦闘開始〜オタオタ四体〜≫


「実力を見ることが最優先だからな!勝手に倒すなよ」
「解ってるっつーの!!!てめえこそ、敵をの方に行かせんなよ!」
「二人共、来ますわよ!」



オタオタが転がりながら移動してくる。
リヒターが最前線で食い止めているけれど、それでも1匹は必ず後衛を狙いにいく。
それをナタリアやヒスイがカバーするけれど…、倒さないようにってのも難しい。






「え〜っと…
ゆうえんをささえし…いだい…なるおう…ち…にひ、ひれふしゅお◎△×▼…」




「おいおいおい!なんかヤバイ気がするぞ!」
「詠唱が難しすぎての舌が回っておりませんわ!!!」




<がちっ>

「……べろかんだ〜…」






「まずいっ!!!」

「どーすんだよ!!!と、兎に角ヒールっ!!!」





舌を噛んだことにより、の苛々が増したようね。
只でさえ、長い詠唱を中断させられたんだもの。
身の丈に釣り合わない杖を振り回し、怒りを表している。







「もー!!!!ながいのやっ!!!


 
“カチカチツルツルピキピキドカーン!いんべるのっ!!!





オタオタに氷系の術が放たれた。
全員が唖然としている。


今のって…誰かが言ってたわね…。







“かぜよ!さっとふいてさっときれ!!ういんどかったー!!



今度は風系の術。
……この詠唱の仕方は一人しかいない。


詠唱を変えてからはあっという間にオタオタを倒してしまった。
喜ぶ、だけど他三名は呆然としている。









…何処でその詠唱を覚えた?」



「う?れいぶんがいってたよー」









……やっぱり。



あんな気の抜ける詠唱、あの人しかいないわ。
別にがそれを唱えるのが不満なわけではない。

ただ、がレイヴンの真似をしていると言うのが……。










「なあ、。あれ言ってくれ。アリーヴェデルチの詠唱」


「いいよー。えっとー…


 
いつもこころはぴんくいろっ!くらえ、こいごころ〜!



「ぐわーやられたぁ!」




そこ!楽しそうにしない!!!








「まあこれで実力は問題ない事が解ったわね」
「だがあの詠唱は…」
「大丈夫よー。魔術の詠唱って人それぞれだし。要は魔力を高められるかどうかでしょ?」




小さく裾を引っ張る感触、下を見ればがきらきらとした瞳で私達を見上げていた。





「これで、もくえすとやっていい?」








その期待を込めた眼差しに“NO”と言える人物は誰もいなかった。






























交代の時間が近づき、私達は広場へと向った。

クエストをやってもいい、と言う許可を貰ってからはずっと機嫌が良かった。
条件として“必ず前衛二人と回復役を連れて行く事”が前提だけれど…それでも仕事をさせてもらえるのが嬉しいのでしょうね。
幼い子は大人と同じことをやりたがる、も例に漏れない。




「あ、次の方達がもう待っていますわ」

「どれどれ〜次の番は……ってあら。なんだか意外な組み合わせ」

































〜〜〜〜!!!ひっさしぶりぃ♪」

「こんにちわ、皆さん。お疲れ様です」

「リフィル様〜
vVナタリアちゅわ〜んvVアーチェちゅわ〜んvV後ついでに野郎共ー。ちゃんとの面倒見たんだろーなぁ」

「今度はワイらの番じゃからのぉ。大船に乗ったつもりで任せとけぃ」

「アウ!」




ベリル・エステル・ゼロス・モーゼス(+ギート)の四名。
共通点が全く無い組み合わせね、特に問題も無さそうだけど。





「……ぎーとぉっ!」





ナタリアと手を繋いでいたはギートを見つけると勢い良く駆け出した。
転ぶのでは、と皆が心配したがギートの方もに駆け寄ってくれたので大した距離は走っていない。
は本当に動物が好きなのね。







「では次はよろしくね」
「任せてください!皆さんに負けないよう頑張ります」

「お願いしますわ。何かあったら言ってくださいませね」


「あ、もクエストやることになったからフォローよろしくね!」

「え!?あんなちっこい体で大丈夫なわけ?!」

「本人がやると言って譲らないんだ。実力は小さくなる前と変わりない」


「泣かせんじゃねーぞ」

「誰に向かって言ってくれてんだ?このゼロス様に限ってそんなドジするわけないっしょ」

坊の兄貴分のワイがおるんじゃから大丈夫じゃ」

「お前いつから兄貴分になったんだよ…」